「売る側の都合」ではなく「買う側の心理」で考える
自動車ディーラーの営業活動では、
「来店していただく」
「試乗していただく」
「見積を提示する」
「契約いただく」
といった販売プロセスで考えることが一般的です。
もちろん、それらは営業活動として重要なステップです。
しかし、お客様は営業プロセスに沿って車を購入するわけではありません。
お客様は、お客様自身の心理変化と意思決定プロセスに沿って購入を検討しています。
この「お客様視点の購買プロセス」を理解するための考え方が、カスタマージャーニーです。
カスタマージャーニーとは何か
カスタマージャーニーを直訳すると「顧客の旅」です。
お客様はある日突然、
「この車を買います」
と決断するわけではありません。
例えば、
- 車検が近づいている
- 家族構成が変わった
- 今の車に不満が出てきた
- SNSやYouTubeで新型車の情報を見た
といったきっかけから検討が始まります。
その後、
興味を持つ
情報収集する
比較検討する
試乗する
家族と相談する
購入を決断する
という流れをたどります。
つまりカスタマージャーニーとは、お客様の行動そのものではなく、
その背景にある心理変化を理解するための考え方
なのです。
なぜ今、カスタマージャーニーが重要なのか
以前は営業担当者が持つ情報量の優位性がありました。
お客様は店舗へ行かなければ情報を得ることが難しかったためです。
しかし現在は違います。
お客様は来店前に、
- メーカーサイト
- 比較サイト
- YouTube
- SNS
- 口コミサイト
などを通じて情報収集を行っています。
比較検討もオンラインで進みます。
場合によっては営業担当者より詳しく調べているお客様も珍しくありません。
つまり現在のお客様は、
「情報が欲しいから来店する」
のではなく、
「最終判断のために来店する」
ようになっています。
この変化を理解しないまま従来型の営業を続けると、お客様との間に大きなズレが生じてしまいます。
ディーラーが関与できるタッチポイントは減っている
ここで重要なのは、お客様との接点そのものが減少しているという事実です。
かつては、
- 折込チラシ
- DM
- 電話
- 来店接客
などを通じて、比較的多くの接触機会を持つことができました。
しかし現在は、お客様の情報収集行動の多くがデジタル化しています。
つまり、お客様の検討プロセスの大半はディーラーの見えない場所で進行しているのです。
言い換えれば、営業担当者がお客様と直接コミュニケーションできるタッチポイントは極めて限られています。
だからこそ、一つひとつの接点を無駄にしてはいけません。
これは焦って売り込めという意味ではありません。
むしろ逆です。
限られた接点だからこそ、お客様の心理状態を理解し、その時に必要な情報やサポートを提供することが重要なのです。
初対面でクロージングしても売れない時代
以前の営業スタイルでは、
「今日決めていただければ特別条件です」
「今月登録なら値引きできます」
といったクロージングを早い段階で行うこともありました。
しかし現在のお客様は、来店前から自分なりの検討プロセスを持っています。
まだ比較検討段階のお客様に対して契約を迫れば、
「まだそこまで考えていない」
「売り込まれている」
という印象を与えてしまいます。
これは、お客様の心理状態と営業行動が一致していない状態です。
カスタマージャーニーを理解するとは、お客様の現在地を理解することでもあります。
心理変化に合わせたタッチポイントが必要になる
お客様の心理状態は常に変化しています。
興味を持ち始めた段階と、購入直前の段階では必要な情報が異なります。
例えば、
興味段階では、
- 商品の特徴
- 利用シーン
- オーナーの声
が有効です。
比較検討段階では、
- 試乗
- 査定
- 支払いシミュレーション
- 競合比較
が重要になります。
購入直前では、
- 納期
- 下取条件
- 契約手続き
への関心が高まります。
つまり全てのお客様に同じ提案をするのではなく、その時々の心理状態に合わせたタッチポイントを設計する必要があるのです。
良いタッチポイントは「先回り」する
優れた営業担当者は、お客様から質問されてから動くのではありません。
お客様が次に抱えるであろう疑問や不安を予測しています。
例えば、
試乗後には、
「ご家族の反応はいかがでしょうか」
という視点を提供する。
査定後には、
「今後の下取相場の変動」
について説明する。
比較検討中には、
「他のお客様が最終的に重視されたポイント」
を共有する。
こうした先回りした情報提供は、お客様に安心感を与え、信頼関係を深めます。
ただし、誘導しすぎると逆効果になる
一方で注意も必要です。
カスタマージャーニーは、お客様を思い通りに誘導するための手法ではありません。
まだ検討初期のお客様に対して、
- 強引な試乗誘導
- 過度な値引き提案
- 契約前提の商談
を行えば、かえって信頼を失うことになります。
大切なのは、
「こちらが売りたいタイミング」
ではなく、
「お客様が知りたいタイミング」
に合わせることです。
限られたタッチポイントだからこそ、一回一回の接点の質が重要になります。
会話の見える化がカスタマージャーニーを教えてくれる
前回の記事では「会話の見える化」について解説しました。
実はカスタマージャーニーを理解するためにも、会話の記録は重要です。
なぜ興味を持ったのか。
何を不安に感じているのか。
誰が意思決定者なのか。
どの情報が購入意欲を高めたのか。
こうした情報を蓄積することで、お客様がどのような心理変化を経て購入に至るのかが見えてきます。
つまり会話の見える化は、カスタマージャーニーを発見するための重要な手段でもあるのです。
顧客理解こそが営業力になる
これからのディーラー営業は、商品説明だけでは差別化が難しくなります。
一方で、お客様を理解する力は大きな競争力になります。
カスタマージャーニーとは、お客様の行動を管理するためのものではありません。
お客様の心理変化を理解し、適切なタイミングで適切な情報を提供するための考え方です。
そして、限られたタッチポイントを最大限に活かしながら信頼を積み重ねることこそが、選ばれる営業担当者、選ばれる店舗につながっていくのです。
自動車ビジネス研究所では、カスタマージャーニー設計、CRM活用、営業プロセス改善、顧客接点戦略の構築支援を行っています。
「お客様視点の営業活動へ変革したい」
「顧客理解を組織の力にしたい」
とお考えの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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