― 紹介が生まれるセールスのネットワーキング
自動車セールスにとって、新しいお客様との出会いをどう作るかは永遠のテーマです。
- 広告。
- Webからの問い合わせ。
- 店舗への来店。
- 既存顧客への代替提案。
- 法人営業。
さまざまな販売源泉がありますが、その中で改めて重要性を考えたいのが、”既存のお客様からの「紹介」”です。
紹介販売は、単なる補助的な販売ルートなのでしょうか。
実際には、決してそうとは言い切れません。
群馬県を中心に自動車販売を展開するトヨナガは、年間販売台数の58.4%がリピートまたは紹介のお客様だと公表しています。紹介単独の比率ではありませんが、既存顧客との関係が販売を支える大きな源泉になっていることが分かります。
また、J.D. Powerが日本の新車購入者を対象に行った調査では、販売プロセスへの満足度が800ポイント以上の高満足顧客の85%が、その販売店を家族や知人に「たぶんする」「必ずする」と推薦すると回答しています。一方、満足度500ポイント未満では35%でした。
つまり、
良い販売体験は、その一台の販売で終わらず、次のお客様につながる可能性を持っている
ということです。
これからのセールスにとって、「紹介をいただく」ということは偶然起こるうれしい出来事ではなく、意識すべき重要な販売源泉の一つではないでしょうか。
ただし、ここで言う紹介営業とは、
「誰かクルマを買いそうな人はいませんか?」
とお客様にお願いすることではありません。
その前に、もっと大切なことがあります。
「なぜ、お客様は自分から買うのか」
を考えることです。
1.「このクルマを買う理由」だけでなく、「あなたから買う理由」はあるか
自動車そのものには、メーカーが作った商品力があります。
- デザイン。
- 性能。
- 安全性。
- ブランド。
- 価格。
- 残価。
- 装備。
これらは大切ですが、基本的には同じブランドを扱う別の店舗でも提供できます。
それでは、お客様が「あなたから」買う理由は何でしょうか。
対応が早い。
説明が分かりやすい。
約束を守る。
自分のことをよく理解してくれている。
こうした基本的な価値は当然必要です。
しかし、さらに一歩進めて考えると、
「この人と付き合っていると、自分にとってプラスになる」
と思ってもらえる何かを持つことが重要なのではないでしょうか。
紹介営業を体系化している砂田全士氏は、自身の公式情報で、顧客管理の方法を変えた結果、一人のお客様から100名を超える紹介の連鎖につながった経験を紹介しています。
これは生命保険営業の事例ですが、
「顧客になる理由を作る」
という考え方は、自動車販売にも十分応用できます。
自動車販売で考えるなら、
「なぜこの車を買うのか」だけでなく、「なぜこのセールスと付き合うのか」
を作るということです。
2.ネットワーキングとは「知り合いが多いこと」ではない
ここで今回のテーマである「ネットワーキング」を考えてみます。
ネットワークというと、
「経営者をたくさん知っている」
「名刺を何千枚持っている」
「顔が広い」
というイメージを持つかもしれません。
しかし、それだけではネットワークに価値があるとは言えません。
大切なのは、
必要なときに、適切な人と人を、適切な理由でつなげられること
です。
そして、そのためには、まずお客様との会話の中に出てくる小さなサインを拾える関係であることが重要です。
例えば法人のお客様との何気ない会話の中で、
「最近、この事務所も少し手狭になってきたんですよ」
「お客様との打ち合わせを考えると、この場所はちょっと不便なんですよね」
「採用を増やしたいんだけど、今の場所だと難しくて」
といった話が出たとします。
この段階では、まだ「事務所を移転する」と決めているわけではないかもしれません。
当然、移転が具体化してからであれば、すでに不動産会社や関連業者が決まっていることも多いでしょう。
だからこそ大切なのは、
具体的な案件になる前の、悩みや違和感の段階で話を聞ける関係を作ること
です。
そして、こうした話が出たときに、
「そうなんですね」
と聞き流して終わるのではなく、
「自分のネットワークの中に、何か役に立てる人はいないだろうか」
と考えてみる。
すぐに紹介する必要はありません。
状況をもう少し聞き、
本当に紹介が役立ちそうであれば、
「もし必要になったら、こういう分野に詳しい方をご紹介できますよ」
くらいの一言を添える。
これが現実的なネットワーキングだと思います。
同じように、
「最近採用が難しくて」
「Webからの問い合わせが減っている」
「社用車の管理が大変で」
「取引先との会食場所にいつも困っていて」
といった話も、日常会話の中では比較的自然に出てきます。
重要なのは、
顧客の課題を探し回ることではなく、普段の会話の中で出てきた情報を聞き流さないこと
です。
3.「相談される人」になるには、まず会話の質が必要
ここも現実的に考える必要があります。
お客様は、いきなり自動車セールスへ経営相談をするわけではありません。
最初は当然、
- 点検。
- 車検。
- 代替。
- 保険。
- 納期。
- 下取り。
といった自動車の話が中心です。
しかし、そのやり取りの中で、
「最近忙しそうですね」
「会社の駐車場、台数増えましたね」
「前回お話しされていた採用、その後どうですか」
といった会話が自然に積み重なれば、少しずつ自動車以外の話も出てきます。
つまり、
ネットワーク営業の前提は、無理に話題を広げることではなく、お客様のことを覚え、会話を積み重ねること
です。
その結果として、
「この人には少し話してもいい」
という関係になる。
ここを飛ばして、いきなり「何かお困りごとはありませんか」と聞いても、深い話は出てきません。
4.最初に「紹介してください」と言わない
紹介が重要だからといって、会うたびに、
「誰かクルマを買いそうな人をご紹介ください」
と言えばよいわけではありません。
むしろ順番は逆です。
まず、自分がお客様に価値を提供する。
ただし、ここでも無理に何かを与える必要はありません。
日常会話の中で出てきた話を覚えておく。
あとで役立ちそうな情報があれば送る。
必要そうな人を知っていれば、相手の状況を確認したうえで紹介を申し出る。
自分では分からないことであれば、知ったかぶりをせず、
「その件なら、詳しい人に確認してみます」
と言う。
こうした積み重ねが、
「この人は、自分に何かを売るときだけ連絡してくる人ではない」
という信頼につながります。
そして、
「この人なら、自分の知人を紹介しても大丈夫だ」
と思ってもらえるようになる。
つまり、
紹介をお願いする前に、紹介したくなるセールスになる。
これが重要です。
5.セールス自身が「提供できる価値」を増やす
では、お客様にどんな価値を提供できるでしょうか。
ここで大切なのは、何でも相談に乗れる万能な人になることではありません。
自分が確実に役立てる領域を少しずつ増やすことです。
例えば、
- 自動車に関する最新情報。
- 保険やリースについての基本的な知識。
- 法人車両の管理に関する情報。
- EVや充電環境についての知識。
- 地域の道路事情。
- 信頼できる整備・施工事業者。
- 地域の店舗やサービス。
- 自分が実際に付き合い、信頼できる専門家。
こうした情報は、お客様との会話の中で役立つことがあります。
ただし、
「これを知っているから紹介しよう」
ではなく、
相手がその情報を必要としているか
を考えることが前提です。
ネットワーキングは、知っている人を片っ端からつなぐことではありません。
6.お客様を「次に車を買ってもらう人」だけとして見ない
CRMを見ると、
- 購入車種。
- 購入日。
- 次回車検。
- ローン満期。
- 代替予定。
といった情報にどうしても目が向きます。
もちろん重要です。
しかし、お客様は「次の販売機会」だけを持っている存在ではありません。
仕事があります。
趣味があります。
家族があります。
地域とのつながりがあります。
友人や取引先があります。
それぞれに異なる経験や知識があります。
ただし、ここでも大切なのは、
お客様を“人脈資源”として見るのではないこと
です。
まず、その人自身との関係を大切にする。
そのうえで、会話の中で自然に、
「こういう人を探している」
「こういうことに困っている」
という話が出たときに、
双方にメリットがありそうなら紹介を考える。
それくらいの距離感が現実的です。
7.「紹介」は、もっと意識して育てるべき販売源泉
紹介は非常に質の高い販売機会になり得ます。
紹介されたお客様は、完全な新規顧客とは違います。
紹介者の信頼を一部引き継いだ状態で最初の接点を持つことができます。
「○○さんから紹介された人なら、一度話を聞いてみよう」
というところから商談が始まります。
広告を見て初めて問い合わせたお客様とは、スタート地点が違います。
だからこそセールスは、
- 新規来店。
- Webからの問い合わせ。
- 既納客代替。
- 法人開拓。
と並んで、
「紹介」を自分の販売源泉として明確に意識するべき
だと考えます。
ただし、
「今月あと3件紹介をもらう」
だけを目標にすると、逆にお客様との関係を壊す可能性があります。
重要なのは、
- 誰から紹介をいただけているのか。
- なぜその人は紹介してくれたのか。
- どんな関係性が紹介につながったのか。
- 日頃どんなやり取りをしていたのか。
を振り返ることです。
紹介を偶然に任せるのではなく、
紹介が生まれる関係を意識して育てる。
ここが重要です。
8.ネットワークの大きさは「信頼の大きさ」でもある
人を紹介するということは、自分自身の信用も一緒に渡すことです。
だからこそ、雑な紹介はできません。
「この人なら大丈夫」
と確信できる人だけを紹介する。
双方に、紹介してよいか確認する。
相手から聞いた情報を勝手に伝えない。
紹介後に必要以上に介入しない。
そして結果を無理に求めない。
こうした配慮が必要です。
当然、セールス自身にも、
- 約束を守る。
- レスポンスが早い。
- 分からないことを知ったかぶりしない。
- 個人情報を慎重に扱う。
- 自分の利益だけを優先しない。
といった基本姿勢が求められます。
つまり、
ネットワークの広さとは、その人が積み重ねてきた信頼の広さでもある
のです。
9.CRMも「顧客管理」から「関係管理」へ
こうしたネットワーキングを考えると、CRMの使い方も変わります。
ただし、ここでも何でも記録すればよいわけではありません。
例えば、
「採用に困っている」
「事務所が手狭だと言っていた」
「EV充電設備に関心がある」
「社用車の管理負担を気にしている」
といった、今後のコミュニケーションに意味のある情報を適切に残す。
そして次回、
「前回、採用が大変だとおっしゃっていましたが、その後どうですか」
と自然に会話を続けられるようにする。
CRMの目的は、
お客様を分析対象として細かく記録することではありません。
お客様との会話を途切れさせないために使うこと
です。
もちろん、個人情報や機微情報については十分な配慮が必要です。
10.個人のネットワークから、店舗・会社のネットワークへ
優秀なセールスだけが強固な顧客ネットワークを持っていると、その人が異動・退職した瞬間に関係が切れてしまうことがあります。
しかし、ここでも会社が顧客関係を奪うような形にしてはいけません。
理想は、
最初に担当セールスを信頼する。
その人を通じて店舗の他のスタッフとも関係ができる。
サービス部門とも接点が増える。
最終的には、
「担当者だけでなく、この店なら安心できる」
という状態になることです。
そうすれば、
担当変更があっても関係は継続しやすくなります。
個人の人脈を会社へ移すというより、
個人から始まった信頼を、店舗全体へ広げる
という考え方の方が自然です。
11.「車を売るための人脈作り」ではない
今回お伝えしたいのは、
「人脈を増やせばクルマが売れる」
という話ではありません。
順番は逆です。
- 日頃の会話を大切にする。
- 相手の話を覚えておく。
- 小さな悩みを聞き流さない。
- 自分にできることを考える。
- 必要であれば、人をつなぐ。
- それを繰り返す。
その結果として、
「この人は、自分にとって役に立つ」
「この人なら安心して知人を紹介できる」
という関係が生まれます。
自動車は数年に一度しか買わない商品です。
だからこそ、次にクルマを買うまでの数年間、
「車を売る用事がなくても付き合う価値のある人」でいられるか
が重要なのではないでしょうか。
優秀なセールスとは、単に多くのお客様を持っている人ではありません。
お客様から「この人と付き合っていると、自分にも良いことがある」と思ってもらえる人。
そして、
「この人なら、自分の大切な知人を紹介しても大丈夫だ」と思ってもらえる人。
そんなセールスであれば、紹介は偶然ではなく、継続的な販売源泉になっていくはずです。
「このクルマを買ってください」と言う前に、
「自分と付き合うことで、お客様にどんな価値を提供できるのか」
を考えてみる。
顧客とのネットワーキングは、そこから始まるのではないでしょうか。


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